> ゲームボーイの歴史

女性ユーザーとゲームボーイ



1997年7月、任天堂から「ピンク」のゲームボーイポケットが発売されました。

ゲームボーイは女性ユーザーの獲得に初めて成功したゲーム機のひとつです。日本ではあまり知られていませんが、名前に反して(?)多くの女性ユーザーに受け入れられました。

米国任天堂の発表によると、1995年時点で、ゲームボーイのユーザーのうち46%は女性。これはファミコン(NES)の29%とスーパーファミコン(SNES)の14%を合わせた数字よりも高いものだった。
米国新聞「The Gainesville Sun」95年1月15日「Makers Of Games Focus On Girls」より

上の記事は、海外でゲームボーイ25周年を祝う際にいくつかのサイトで紹介されたもの。ゲームボーイが女性ユーザーに受け入れられた要因としては「テトリス」が大きかったと言及されています。また、2011年のGDC(ゲーム開発者会議)の講演では、当時の任天堂社長だった岩田聡氏が「アメリカの1989年12月末時点でゲームボーイの40%のプレイヤーが女性だった」と述べており、米国市場ではテトリス人気によって初めから女性ユーザーが多かったことがわかります。

一方、日本ではどうだったかというと、1996年の『ポケットモンスター』をはじめとしたキャラクターの魅力によって、女性ユーザーが増えたという認識が一般的です。たとえば、ファミコン時代からゲームの変遷をみてきた高橋名人は次のように語っています。

いまは女性のユーザーが多いのも、かなり変わったところです。昔、ファミコンで女性向けのゲームを出しても、たいてい失敗していました。それが『ポケットモンスター』あたりで、ゲームの遊びではなく、キャラクターの魅力として、一気に女の子にも広がるようになりました。
高橋名人はスマホゲームをどう見る? 2014年【高橋名人1万字インタビュー後編】より抜粋

じっさい、ポケモン発売翌年の1997年時点で、任天堂も同じような意見を持っていました。

『ポケモン』について言えばキャラがかわいいということもあって女性比が高くなってきていますね。だからピンクのゲームボーイポケットを発売することにしたというのもあるんです。
Nintendo Dream 1997年【任天堂質問箱】より抜粋

任天堂は、アンケート結果からユーザーの傾向を調査しており、ポケモンの女性比が高くなっていることを把握していました。女性ユーザー獲得に向けて任天堂が明確な動きを見せたのは(日本では)これが初めてだったかもしれません。

他にも、ゲームボーイの女性ユーザーに関して意外な事実を示す資料が存在します。「CESAゲーム白書」に<機種別当人使用率>という項目が男女別・年齢別に記載されているのですが、1996年と1997年のゲームボーイの使用率は男性より女性のほうが多いのです。

 96年 男性 6.5%  < 女性 11.2%
 97年 男性 9.5%  < 女性 11.5%

 98年 男性 19.9% > 女性 16.9%


 ※標本数:約1000人、男女比:半々
 (CESA設立が96年なので、95年以前のデータはなし)

ポケモンが発売される直前はゲームボーイの影が薄くなっていた時期ですが、そうした事情があるにしても、女性が男性を上回っているのは異例。他ハードでこのような逆転現象はみられません。

(ちなみにユーザーの年齢層をみると、女性というより女子といったほうが近いですが、この記事内ではとくに区別しません)

遡ってみると、少女マンガを題材にしたゲームをいちはやく発売したのはゲームボーイでした。

  

90年代にアニメが放映された「ちびまるこちゃん」「セーラームーン」は、時代を象徴するほど人気が高かった作品ですが、一番最初に発売されたのはゲームボーイ版だったのです。その後、他ハードでも少女漫画を原作としたゲームが発売されるようになりました。
ゲームボーイは案外早くから女性向けのゲーム市場の可能性を示していたのかもしれません。

話を戻しますが、『ポケットモンスター』以降、任天堂が女性ユーザーを意識するようになったことは間違いありません。1998年に発売されたゲームボーイカラーでは、メインカラーに「男女を問わないユニセックスな色」であるとして『パープル』を据えています。

ゲームボーイカラーが登場するくらいの時期になると、女性向けソフトの特集がゲーム雑誌で扱われることが珍しくなくなりました。これはかつてのゲーム雑誌にはほとんど見られなかったものです。



2001年には、女性向け&女性を主人公に選べるゲームボーイのタイトル数は最多となりました。こうした経緯をみても、あらためてゲームボーイは女性ユーザーに初めて受け入れられたゲーム機のひとつだったといえるでしょう(日本でも)。

ちなみに、女性ユーザー比を数値で表すと、プレイステーション時代(1998年)でようやく20%を超えたくらいで、それが半分近く(約50%)まで高まるのは『ニンテンドーDS』(2004年)以降のことでした。女性ユーザーの割合が男性を超えるほどになるのは『スマホゲーム』(2007年~)の登場を待たなくてはなりませんが、じつは時代を遡ると、『ゲーム&ウオッチ』(1980年)の女性比が40%になっていたという記録もあります。

このように、日本では『携帯ゲーム』の女性人気が歴史的に続いていることは興味深いかもしれません。


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